たけまる / 「長期保有」は本当に有利なのか? − 平均回帰
2006-10-31
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「長期保有」は本当に有利なのか? − 平均回帰 [finance]



一般に株価はランダムに動くと言われています.しかし,本当にランダムというよりは,「大きく下げた後は上がりやすい (上げた後は下がりやす
い)」という人もいます.この特徴を平均回帰といいます.平均回帰が存
在するのであれば,効果的な投資戦略ができそうです.
平均回帰について簡単に調べてみました.
さて,[2006-09-30] でみたように,日本株式を 1 年間だけ保有したとき
の利回りはだいたい 12±44% (2標準偏差) くらいになります.25 年間保
有したときの値動きの幅 (ブレ) は,年率換算で 10±2% あるいは 14±8%
です.長期保有によって,ブレ (±のあとの数字) がかなり小さくなって
います.
年率換算の利回りで比較すると,1 年間保有したときのブレ (±44%) に
比べて,25 年間保有したときのブレ (±2% あるいは±8%) はとても小さ
くなっています.これは連続して平均を上回り続ける (下回り続ける) 確
率が低いためです.1日だけなら平均気温を大きく上回る (下回る) こと
もよくありますが,25日間連続して上回り続ける (下回り続ける) ことは
ほとんどないのと同じことです.
ところで,[2006-09-30] で紹介したシミュレーションは,株価はランダ
ムに動くと仮定しています.[2006-09-30] のシミュレーション結果に 12
±8% の範囲を追加してみます.
ほとんどのシミュレーション結果 (赤点) は,12±8% の範囲 (緑線) に
収まっています.この結果からは,株価の動きに法則はみられません.ラ
ンダムのようです.
[2006-09-30] では過去のデータをもうひとつ紹介しました.それにならっ
て 12±2% の範囲を追加してみます.
今度は,多くのシミュレーション結果 (赤点) が,12±2% の範囲 (緑線)
から外れました.株価はランダムに動いているのではなく,平均値である
12% (青線) に戻ろうとするクセがあるということになります.このよう
なクセを「平均回帰」といいます.
もし,平均回帰が本当に存在するのであれば,下がった株価はきっと上が
るし,逆に上がれば下がるということが予想できます.つまり,軟調な相
場で買い漁れば (あるいは好調な相場を売りまくれば),しばらくして大
きな利益を得られるということになります.たとえば,2003年の日本株式
市場のように大きく値を下げたときに買っておけば,その後に大きな値上
がり益を期待できるということです.
本当にそんな簡単なのでしょうか.ところが,学問的には回帰のような偏
りはみとめられないとされています.おそらく,±2% とした過去データ
が間違っているのでしょう.
しかし,回帰の存在は『敗者のゲーム』[2006-08-26] のような堅実な投
資本でも述べられています.

長期投資家は,経済指標や株価などが,一般には釣鐘状の正規分布に沿っ
た形で現れ,長い目で見ればそれらを「平均値に回帰させる」ということ
を経験から知っている.現状が「平均値」から乖離していればいるほど,
回帰の力も強まるということも.
(『敗者のゲーム』p.164)
また,これまで先進国の株式相場が平均的には上がり続けてきたという事
実を顧みても,まったく無視することはできないのかもしれません.
Dow Jones (米 1929-)
FTSE 100 (英 1984-)
日本株式にしても,1990年前後の暴騰期間を除外すれば,年率 10% 近い
ペースで上昇しているようにみえます.

回帰についてはっきりした結論が出にくい一番の理由は,資本主義の歴史
がせいぜい100-200年しかなく,長期のデータが少ないためでしょう.こ
のため,精度の高い統計検定が行えず,回帰がないとは言い切るのが難し
いのだと思います.
過去のデータからいえることは,「少なくとも先進国の株式市場では,年
率 10% から大きく外れっぱなしになったことはない」ということになる
と思います.そして,この事実は,これまで株式の長期保有を推奨する理
由となってきました.